2026年8月25日、厚生労働省医薬局医薬安全対策課から「医薬品の使用上の注意の改訂指示」(医薬安発0825第1号)が発出されました。28の別紙にわたる改訂内容が含まれ、薬局が日常的に扱う多くの医薬品が対象となっています。
添付文書の改訂通知は定期的に発出されますが、今回の通知には薬局実務上とりわけ重要な内容が複数含まれています。ドンペリドン・メトクロプラミドの不整脈リスク、オランザピンの禁忌の部分解除、そして葛根湯——医療用だけでなく、OTCを扱う薬局にも関わる改訂です。
この記事では、薬局が把握すべき主要な改訂内容と、実務にどう反映させるべきかを整理します。

今回の改訂で押さえるべき8つのポイント
- ドンペリドン・メトクロプラミド:重篤な不整脈を重大な副作用に新設、漫然投与を避ける旨を明記
- オランザピン:CINV治療目的に限り、糖尿病患者への禁忌を解除
- アセトアミノフェン:ピログルタミン酸蓄積による代謝性アシドーシスの注意を新設
- 葛根湯:医療用・一般用の双方で多形紅斑を追加
- 免疫チェックポイント阻害薬:ぶどう膜炎、血球貪食性リンパ組織球症、重度の食道炎を追加
- アパルタミド:無顆粒球症、好中球減少症、白血球減少症を新設
- ミトタン、イボシデニブ、エンコラフェニブ:一部の抗HIV薬との併用禁忌を追加
- タラポルフィンナトリウム:食道狭窄、食道穿孔を追加

ドンペリドン・メトクロプラミド|不整脈リスクの新たな警告
最も注視すべき改訂の一つが、制吐薬のドンペリドン(ナウゼリン他)とメトクロプラミド(プリンペラン他)です。慢性胃炎や薬剤投与時の悪心・嘔吐に広く使用される薬剤で、処方頻度の高さを考えると影響範囲は大きくなります。
改訂の内容
- 「重要な基本的注意」に、心室頻拍・心室細動などの重篤な不整脈に関する注意喚起を追記
- 「重大な副作用」に「重篤な不整脈」を新設
- 長期にわたる漫然とした使用を避ける旨を明記
改訂の背景
欧州ではドンペリドンの静注製剤について、心臓突然死症例の報告を受けて1985年以降、製造販売承認が取り消されています。オーストラリア保健・高齢化省も2012年に、心室性不整脈・心停止リスクに関する注意喚起を行っています。
ただし海外研究では、リスク上昇との関連を示唆する報告がある一方、関連を示さない報告もありました。日本人集団を対象とした研究がなかったことから、医薬品医療機器総合機構(PMDA)がNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)を用いた調査を実施。2012〜23年度にこれらの薬を処方された1,936万人以上を対象としたネステッド症例対照研究の結果、両薬の使用と重篤な不整脈との関連が示唆されました。
薬局実務への影響
服薬指導時に、不整脈の可能性について説明する必要が生じました。特に心疾患の既往歴や不整脈のリスク因子を持つ患者さん、高齢者に対しては、より丁寧な説明が求められます。
あわせて注目したいのが、漫然投与を避ける旨が明記された点です。長期処方が続いている患者さんについては、症状が改善しているか、継続の必要性があるかを確認し、必要に応じて疑義照会や情報提供を行う姿勢が求められます。
オランザピン|糖尿病患者への禁忌が部分的に解除
オランザピン(ジプレキサ他)は、統合失調症治療薬として2000年に承認されました。発売後、重篤な高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、糖尿病性昏睡の副作用症例が複数報告されたため、禁忌に「糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者」が追加されていました。
今回の改訂により、抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う化学療法誘発悪心・嘔吐(CINV)の治療目的での使用に限り、糖尿病患者・既往歴のある患者でも使用可能になりました。がん治療におけるCINV管理の重要性から、有効性と安全性を検討した結果であり、海外の添付文書やガイドラインの記載に基づく判断です。
薬局実務への影響
糖尿病患者にオランザピンが処方されている場合、その使用目的を確認することが必須になります。CINV治療目的であれば適切な処方ですが、統合失調症治療などその他の目的であれば、医師への確認が必要です。
患者さんには血糖値の定期的な監視が重要であることを説明し、異常な口渇や頻尿などの症状が出た場合は直ちに医師に報告するよう促します。
アセトアミノフェン|ピログルタミン酸蓄積リスクへの新警告
「特定の背景を有する患者に関する注意」に、新たな注意喚起が追加されました。
重篤な腎障害・肝障害・敗血症・栄養障害などによりピログルタミン酸蓄積の素因のある患者への投与に際し、ピログルタミン酸の排泄阻害またはグルタチオン欠乏が生じているため、本剤投与により蓄積が促進され、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスが発現するおそれがある、という内容です。
解熱鎮痛薬として日常的に多くの患者さんが使用する薬剤が、特定の背景を持つ患者では重篤な代謝性アシドーシスを引き起こす可能性がある——この点は見落とせません。
薬局実務への影響
高齢患者や慢性腎臓病、肝硬変などの基礎疾患を持つ患者が、アセトアミノフェンを含む市販薬を購入する際の指導が重要になります。市販薬の場合、患者さんが医療機関の指導を受けていない可能性があるため、薬局としての確認責任がより重くなります。

葛根湯|医療用・一般用の双方に多形紅斑を追加
今回の改訂で、OTCを扱う薬局に直接関わるのがこの項目です。葛根湯について、医療用・一般用ともに重大な副作用として多形紅斑が新たに追加されました。
葛根湯は、風邪のひきはじめに使う漢方として、患者さんが自己判断で購入・服用することの多い薬剤です。「漢方だから安全」という認識を持つ方も少なくありません。
販売時には、服用後に皮膚に赤い斑点状の発疹が出た場合は使用を中止し、医療機関を受診するよう伝える。これから風邪の季節を迎えるにあたり、店頭での説明に組み込んでおきたい内容です。
免疫チェックポイント阻害薬|重大な有害事象の追記
PD-1阻害薬(ニボルマブなど)、PD-L1阻害薬、CTLA-4阻害薬について、重大な副作用にぶどう膜炎、血球貪食性リンパ組織球症、重度の食道炎が新たに記載されました。
これらの薬剤は外来がん化学療法の現場で使用される機会が増え、薬局での対応機会も増加傾向にあります。新たに記載された有害事象の症状——目の充血や見えにくさ、異常な発熱、全身の倦怠感、食道の違和感など——について患者さんに啓発し、異常が認められた場合は直ちに医師に報告するよう指導することが重要です。

薬局が今、実践すべき4つのこと
1|通知内容を確認する
PMDAのウェブサイトに掲載されている28の別紙のうち、自分の薬局で扱う医薬品について確認し、改訂内容を把握します。通知だけを読んで対応を決めるのではなく、自局の採用品、各製品の改訂反映状況、服薬指導資材の順に照合していくと漏れが出ません。
2|服薬指導に反映させる
ドンペリドン・メトクロプラミドの不整脈リスク、オランザピン使用時の血糖値監視、アセトアミノフェンの適応判断、葛根湯販売時の説明。該当する薬剤を扱う場面で、新たな注意点を伝えられる状態にしておきます。
3|処方箋チェックの精度を高める
改訂内容に基づき、不適切な処方がないかを確認する姿勢が求められます。糖尿病患者へのオランザピン処方がCINV治療目的でないと判明した場合、医師に確認を取ることは薬局の責務です。
4|患者背景の把握を厳密にする
腎機能、肝機能、基礎疾患、併用薬。これらの背景情報を丁寧に確認し、改訂内容に照らし合わせることが、今回の改訂を実務に活かす前提になります。
添付文書改訂は、安全対策の最新情報
医薬品の添付文書改訂は、新しい臨床知見や疫学的データに基づいた安全対策の結果です。「定期的な改訂の一つ」ではなく、薬局が今、確認し、実務に反映させるべき内容が詰まっています。
自分の薬局では何ができるか、患者さんにどのように伝えるべきか。改めて考えてみてください。
参考
- 厚生労働省「医薬品の使用上の注意の改訂について」(医薬安発0825第1号、2026年8月25日)
- PMDA「使用上の注意の改訂指示通知(医薬品)」
- 日本製薬団体連合会「DRUG SAFETY UPDATE(DSU)No.348」(2026年9月発行予定)
本記事は情報提供を目的としたものです。実際の対応にあたっては、必ず最新の電子添文および原通知をご確認ください。
