秋になると、咳や呼吸器症状を訴えて来局する患者さんが増えてきます。多くの方は「涼しくなったから風邪をひいた」「季節の変わり目だから喘息が出た」と考えています。しかし秋は、性質の異なる感染症とアレルギー疾患が同時に広がる季節です。
昼夜の気温差が大きくなり、空気が乾燥し、秋の花粉も飛び始める10月。夏から続くマイコプラズマやRSウイルスの報告に加えて、インフルエンザの流行も近づいています。
「咳が出ています」という一言の裏に何があるのか。この記事では、秋に薬局が押さえておきたい5つの呼吸器疾患と、窓口での見分け方、服薬指導のポイントを整理します。

秋の呼吸器疾患は「感染症」と「アレルギー」に分けて考える
感染症
- インフルエンザ
- マイコプラズマ肺炎
- RSウイルス感染症
アレルギー疾患
- 喘息の悪化
- 秋の花粉症
これらは症状が似ているため、患者さんが自己判断で市販薬を選ぶと、合わない薬を使い続けてしまうことがあります。窓口での見分けが、適切な治療への入り口になります。

窓口で聞き取りたい4つのこと
「咳が出ています」だけでは判断できません。次の4点を聞き取ると、疾患の見当がつけやすくなります。
- 発熱はあるか|高熱ならインフルエンザ、発熱がなければアレルギーの可能性
- 咳はいつから続いているか|2週間以上ならマイコプラズマなどを疑い、受診勧奨
- 全身症状はあるか|関節痛・筋肉痛・強いだるさはインフルエンザの特徴
- 悪化する時間帯や場面はあるか|夜間に悪化するなら喘息、外出後に悪化するなら花粉症
① インフルエンザ|全身症状の強さで見分ける
例年11月〜3月に流行しますが、早い年は10月から報告が増え始めます。学校や職場など集団生活を通じて一気に広がるのが特徴です。
38℃以上の急な発熱、頭痛、筋肉痛、全身の強いだるさが主な症状です。普通の風邪との最大の違いは全身症状の強さで、「関節が痛い」「体全体がだるい」という訴えがあれば、インフルエンザを疑う手がかりになります。
薬局で押さえるポイント
- 処方監査|小児にジクロフェナクやメフェナム酸が処方されていないか確認する(ライ症候群のリスク)
- ワクチンの確認|接種が始まる時期なので、接種済みかを確認し、高齢者や基礎疾患のある方には接種を勧める
- 抗インフルエンザ薬の説明|単回か5日間か、内服か吸入か。治療の見通しを伝え、吸入薬は手技まで確認する
抗インフルエンザ薬の使い分けやワクチンの説明については、「流行前のインフルエンザ薬局対応」で詳しくまとめています。

② マイコプラズマ肺炎|「咳だけが長引く」に注意
小児から若年層に多く、秋に流行が目立ちます。特徴は2〜3週間続く乾いた咳です。発熱は微熱から高熱まで幅があり、全身の倦怠感を伴います。
「風邪だと思ったが咳だけ残っている」「咳止めを飲んでいるのに効かない」という訴えで来局されることが多い疾患です。
薬局で押さえるポイント
- 市販の咳止めで様子を見続けない|2週間以上咳が続く方には受診を勧める。自己判断で市販薬に頼ると、診断が遅れる
- 抗菌薬の説明|マクロライド系(アジスロマイシンなど)が第一選択だが、耐性菌も報告されている。医師の治療方針を理解したうえで、飲み切ることの大切さを伝える
- 小児への配慮|小児用量の確認と、下痢などの消化器症状についての説明
③ RSウイルス感染症|家庭内の赤ちゃんを守る
乳幼児に多い感染症で、夏から秋にかけて流行します。大人が感染しても風邪程度で済むことが多い一方、乳幼児では喘鳴を伴う細気管支炎に進み、重症化することがあります。

薬局で押さえるポイント
- 家族構成を聞く|「ご家族に小さなお子さんはいますか」の一言を。保育園に通う兄弟から、家庭内の赤ちゃんにうつるケースが多い
- 家庭内の予防指導|手洗いの徹底、タオルの共用を避ける、咳が出ている間は赤ちゃんとの密接な接触を控える
- 妊婦向けワクチンの情報提供|2026年4月から、妊娠28週〜36週の妊婦を対象にRSウイルスワクチンが定期接種(公費負担)になっている。妊娠中の家族がいる方には情報として伝えられる
④ 喘息の悪化|「夏に止めた吸入薬」を確認する
秋は喘息が悪化しやすい季節です。昼夜の気温差や空気の乾燥、秋の花粉が発作の引き金になります。喘鳴、夜間の咳、息苦しさ、胸の不快感が主な症状で、「秋になると毎年症状が出る」という方も少なくありません。
薬局で押さえるポイント
- 吸入ステロイド薬の使用状況|「春から夏は症状がなかったので止めた」という方は多い。再開について医師に相談するよう勧める
- 吸入手技の再確認|正しく吸えていなければ効果は大きく下がる。症状が悪化している方ほど、その場で手技を見せてもらう
- 急性増悪のサイン|「息が苦しい」「夜も咳で眠れない」という訴えには、速やかな受診を勧める
⑤ 秋の花粉症|「風邪だと思った」の中に隠れている
秋はブタクサやヨモギなどの花粉が飛散します。くしゃみ、鼻水、鼻づまり、咳が主な症状で、「風邪だと思って来た」という方が多いのが特徴です。発熱がなく、外出後や特定の場所で悪化するなら、花粉症の可能性を考えます。

薬局で押さえるポイント
- 感染症との見分け|発熱の有無と、症状が出るタイミングを確認する
- 市販薬の提案|第2世代抗ヒスタミン薬の内服や点鼻薬などを、眠気や運転の有無も踏まえて提案する。医療機関でアレルギー治療中の方は、処方薬との重複がないか確認する
- 生活上の工夫|花粉情報を確認して外出を工夫する、帰宅後は洗顔とうがいをする、洗濯物は部屋干しにする
受診を勧める目安
次のような場合は、市販薬で様子を見るのではなく、医療機関の受診を勧めてください。
- 咳が2週間以上続いている
- 夜間に息苦しさがある、横になると咳がひどくなる
- 38℃以上の発熱と強い全身症状がある
- 乳幼児にゼーゼーという呼吸音がある
- 市販薬を数日使っても改善しない
「秋だから風邪」で終わらせない
秋の呼吸器症状は、いくつもの疾患が重なって現れます。患者さんが「秋だから風邪」「いつもの喘息」と考えている背景に、受診が必要な疾患が隠れていることがあります。
症状を丁寧に聞き取る。必要なら受診を勧める。処方内容を確認する。使い方まで伝える。どれも日常の業務ですが、疾患ごとの特徴を頭に入れておくだけで、窓口での一言が変わります。
流行が本格化する前に、スタッフ間で聞き取りの項目と受診勧奨の目安を共有しておいてください。
本記事は情報提供を目的としたものです。薬剤の使用やワクチン接種については、最新の電子添文および公的機関の情報をご確認のうえ、個別の判断は医師の指示に従ってください。
