インフルエンザの流行パターンが変わっています。例年は冬にピークを迎えていましたが、ここ数年は流行の立ち上がりが早まり、流行期間が長引く傾向が見られます。かつては4月にはほとんど見られなかった罹患者が、近年は春先まで確認される年もあります。
9月末の今、薬局に来局する患者さんの中に、すでにインフルエンザの方が増え始めているのではないでしょうか。「インフルエンザは冬の病気」という前提では、対応が後手に回ります。
この記事では、インフルエンザの基礎知識から抗インフルエンザ薬の使い分け、処方監査で見落とせない解熱鎮痛薬の注意点、そして患者さんへの指導まで、流行期を迎える前に薬局が確認しておきたい内容を整理します。

インフルエンザと普通の風邪の違い
患者さんが来局したとき、「インフルエンザなのか、普通の風邪なのか」を会話から推測することは、薬局の重要な役割です。
普通の風邪
- 主な症状
鼻汁、のどの痛みなど局所症状が中心 - 経過
全身症状は比較的軽い - 合併症
少ない
インフルエンザ
- 主な症状
39℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身症状が強い - 経過
強い全身症状が3〜4日続く - 潜伏期間
1〜5日(平均2日) - 合併症
気管支炎、肺炎などに発展しやすい
窓口での会話から「頭痛や関節痛がある」「発熱が39℃以上」といった情報を拾えれば、インフルエンザの可能性を推測できます。特に高齢者や基礎疾患を持つ患者さんの場合は、風邪と侮らず、医療機関への受診を勧めることが重要です。
なお、確定診断には鼻汁を綿棒で採取する迅速検査があり、約10分で結果が判明します。
なぜ流行時期が変わっているのか
インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型に分類されます。このうち流行的な広がりを見せるのはA型とB型です。
特に注視すべきはA型の特性です。A型は変異しやすく、10〜30年おきに大きく変異します。その際には世界規模の大流行をもたらす可能性があります。流行時期が早まり、期間が長引いている背景には、こうしたウイルスの変異や新しい亜型の出現が関係している可能性があります。
この知識は、患者さんへの説明にも使えます。「なぜこの時期にインフルエンザが流行しているのか」という疑問に対し、ウイルスの性質という根拠を添えて説明することで、対策の必要性が伝わりやすくなります。

ワクチンについて、正確に答えられるようにしておく
9月末から10月にかけて、ワクチンに関する問い合わせが増える時期です。薬局スタッフ全員が、接種時期・効果・副反応について正確に説明できる状態にしておきたいところです。
接種時期
ワクチンは、接種してから効果が現れるまでに2週間程度かかります。そのため、流行シーズン前(通常は10月中旬から11月)の接種が推奨されます。流行の立ち上がりが早い年は、10月初旬までの接種を検討する患者さんも増える可能性があります。
効果の持続は約5か月間とされています。
接種回数
13歳以上は1回接種で十分な効果が期待できます。生後6か月から13歳未満は2回接種で、その間隔は2〜4週間(免疫効果を考慮すると4週間空けることが望ましい)とされています。
効果
ワクチンは、その年に流行すると予測される型をもとに製造されます。近年は予測の精度が向上しており、型が多少ずれても効果がまったくないわけではありません。発症を完全に防げなくても、重症化を防ぐ効果が期待できるという点を、患者さんに伝えることが大切です。
有効率は年や対象年齢によって幅がありますので、特定の数値を断定的に伝えるのは避け、その年の公表データを確認したうえで説明するのが安全です。
接種を避けるべきケース
- 明らかな発熱がある方、重篤な急性疾患にかかっている方
- 過去にインフルエンザワクチンでアナフィラキシーを起こしたことがある方
- ゼラチンアレルギーのある方(経鼻弱毒生ワクチンの場合)
卵アレルギーについて、誤解している患者さんが少なくありません。現在の国内のワクチンに含まれる卵成分はごく微量であり、卵アレルギーがあっても原則として接種可能とされています。ただし、卵でアナフィラキシーを起こしたことがある場合は、接種の可否を医師が個別に判断します。窓口で「卵アレルギーだから打てない」と自己判断している方がいれば、医師に相談するよう案内してください。
妊娠中の方についても、誤解が広がりやすい点です。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、妊娠中のいずれの時期でも接種可能とされています。妊婦はインフルエンザが重症化しやすいため、むしろ接種が推奨される対象です。最終的な判断は主治医によりますが、「妊娠中は打てない」という思い込みで接種機会を逃さないよう、正確な情報を伝えることが求められます。
副反応
注射部位の赤み・腫れ・痛み、発熱、頭痛などが見られることがありますが、通常は2〜3日で治まります。
患者さんには、接種後30分以内に異常を感じた場合、または接種後に発熱・けいれん・強い頭痛などが現れた場合は、直ちに医師に相談するよう伝えてください。
抗インフルエンザ薬の種類と使い分け
内服薬
- ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)
1回の服用で完結。予防投与にも使用可 - タミフル(オセルタミビル)
5日間服用。予防投与にも使用可
吸入薬
- リレンザ(ザナミビル)
5日間吸入。内服が難しい患者さんに - イナビル(ラニナミビル)
1回の吸入で完結。吸入手技の確認が必要
注射剤
- ラピアクタ(ペラミビル)
単回点滴。内服・吸入が使用できない場合に限定
共通して重要なのは、症状が出てからできるだけ早く服用・吸入することです。特に高齢者や基礎疾患を持つ患者さんでは、早期の治療開始が重症化の予防につながります。流行期は、迅速な調剤対応そのものが患者さんの利益に直結します。
吸入薬については、薬を渡すだけでなく吸入手技を確認することが欠かせません。特にイナビルは1回で治療が完結するため、その1回が正しく吸えていなければ治療になりません。高齢者や小児では、その場で練習用の器具を使って確認する対応が有効です。
併用される薬剤について
解熱剤、鎮咳薬、抗ヒスタミン薬などの対症療法薬が同時に処方されることも多くあります。
抗菌薬が処方される場合もありますが、これはインフルエンザウイルス自体に効くものではなく、細菌の二次感染による肺炎や気管支炎に対する治療・予防です。「抗菌薬はウイルスには効かない」という点を患者さんに説明し、自己判断で残薬を次回の風邪に使うことがないよう伝えてください。

処方監査で見落とせない、解熱鎮痛薬とライ症候群
インフルエンザ治療において、薬局が最も注意を払うべきなのが解熱鎮痛薬の選択です。
ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン錠、ボルタレンサポなど)とメフェナム酸(ポンタールカプセル、ポンタールシロップなど)は、特に小児がインフルエンザ罹患時に服用するとライ症候群を発症する危険があるため、原則として投与を避けるべきとされています。その他の解熱鎮痛薬についても、同様の懸念が指摘されているものがあります。
一方、アセトアミノフェン(カロナール錠、アンヒバ坐剤など)は比較的安全とされ、インフルエンザの解熱における第一選択です。
ライ症候群とは
水痘やインフルエンザなどのウイルス性疾患の後に、激しい嘔吐、意識障害、けいれん(急性脳浮腫)が起こり、肝臓をはじめとする諸臓器に脂肪沈着が見られる病態です。各種肝酵素の急激な上昇、高アンモニア血症、低血糖などが短期間に現れ、死亡率の高い重篤な状態に至ります。
インフルエンザが疑われる患者さん、特に小児にジクロフェナクやメフェナム酸が処方されていた場合は、躊躇なく疑義照会を行ってください。また、家庭に常備している市販の解熱鎮痛薬を自己判断で使わないよう、あわせて指導することも重要です。

患者さんへ伝えたい予防策
ワクチンと治療薬だけでは、対策は完結しません。日常的な予防について、窓口から伝えられることがあります。
- 手洗い・うがいの励行|最も基本的で効果的な予防法です。帰宅直後と食事の前を習慣に
- 室内の湿度を保つ|ウイルスは低湿度で活動しやすいため、50〜60%が目安です
- マスクの着用|自身の感染予防と、感染時の飛沫拡散防止の両面で有効です
- 人ごみを避ける|流行期は、医療機関の待合室や駅など人が集まる場所での滞在を短く
- 十分な睡眠と栄養|過労を避け、タンパク質やビタミン類を意識した食事を
季節の変わり目は生活リズムが乱れやすい時期でもあります。高齢者や基礎疾患を持つ患者さんには、この点をあわせて伝えると効果的です。
薬局が今、実践すべき4つのこと
1|ワクチンの問い合わせに答えられる体制をつくる
接種時期、効果、副反応、そして卵アレルギーや妊娠中の扱いについて、スタッフ全員が同じ説明ができる状態にしておきます。誤った思い込みで接種機会を逃す患者さんを減らすことができます。
2|処方監査の精度を高める
インフルエンザが疑われる患者さん、特に小児に対して、ジクロフェナクやメフェナム酸が処方されていないかを確認します。該当した場合は、医師への確認をためらわないこと。
3|抗インフルエンザ薬の特性を説明できるようにする
単回投与か5日間か、内服か吸入か。患者さんが治療の見通しを理解したうえで進められるよう説明します。吸入薬では手技の確認まで行ってください。
4|高齢者・基礎疾患患者への対応を厚くする
重症化リスクの高い患者さんには、ワクチン接種の推奨、発症時の早期受診、予防策の実施について、より丁寧な指導が必要です。定期的に来局される方だからこそ、背景を把握したうえでの声かけができます。
「冬の定番対策」では、間に合わない
インフルエンザは、もはや冬だけの病気ではありません。流行の立ち上がりが早まっている今、9月末の段階ですでに患者さんが増え始めている可能性があります。
従来の流行パターンを前提にした準備では、対応が後手に回ります。ワクチンの問い合わせに答える。危険な処方を止める。治療薬を正しく使ってもらう。予防を伝える。どれも特別なことではありませんが、流行が始まってから整えるのでは遅いのも確かです。
本格的な流行を迎える前に、自分の薬局の準備状況を一度確認してみてください。その小さな準備が、地域の患者さんを支える力になります。
参考
- 厚生労働省「インフルエンザQ&A」
- 各製品の電子添文
本記事は情報提供を目的としたものです。ワクチンの接種可否や薬剤の使用については、最新の電子添文および公的機関の情報をご確認のうえ、個別の判断は医師の指示に従ってください。
