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9月だからこそ薬局が実践すべき熱中症対策

暑熱環境下の薬剤管理から回復期の指導まで

9月に入っても、各地で30℃を超える日が続いています。暦の上では秋ですが、熱中症のリスクはむしろこれからが危険です。「もう夏は終わった」という気の緩みが、エアコンの設定温度を上げる、水分補給の頻度を減らすといった行動につながるからです。

この記事では、2024年に10年ぶりに改訂された『熱中症診療ガイドライン2024』の内容を踏まえ、9月だからこそ薬局が把握し、実践すべきことを整理します。重症化のサインの見分け方、ハイリスク患者の見つけ方、そして暑熱環境下で注意が必要な薬剤まで、明日の窓口から使える形でまとめました。

データが示す、9月の熱中症リスク

総務省消防庁が8月25日に発表した令和8年7月の熱中症による救急搬送状況によると、7月の搬送人員は41,174人。平成20年の調査開始以来、7月としては3番目に多い搬送人員となりました。

注目すべきは、その内訳です。

  • 高齢者が60.2%を占める
  • 入院が必要な中等症・重症患者が41.4%
  • 発生場所は住居が41.7%

外出時だけでなく、自宅という最も気を抜きやすい場所が危険な場所になっています。

そして9月。7月・8月のように熱中症対策を意識していない患者さんが、実は今、最も倒れやすい状況にあるのではないでしょうか。

重症化のサインを見逃さない|ガイドライン2024の「IV度」と「qIV度」

2024年の改訂では、これまで3段階だった重症度分類が4段階に変わりました。最も重要なのは、新たに設けられた「IV度」と、それを外部からの観察で判断する「qIV度(quick IV度)」という概念です。

IV度とqIV度の違い

IV度は、深部体温40.0℃以上かつGCS 8以下の最重症患者を指します。直ちに高度な医療機関への搬送が必要です。

ただし薬局の現場では、深部体温を測定できません。そこで設けられたのがqIV度です。表面体温40.0℃以上(または皮膚に明らかな熱感がある)かつGCS 8以下もしくはJCS 100以上という、深部体温の測定なしに最重症例を見極めるための基準です。

窓口で気づけるサイン

患者さんに応対するとき、こうしたサインに気づいているでしょうか。

  • ふらつきがある
  • ぼんやりとした表情をしている
  • 何度か聞き返しても理解が進まない
  • 皮膚に明らかな熱感がある

これらは単なる体調不良ではなく、重症熱中症の可能性があります。該当する患者さんを見かけたら、すぐに救急車を呼ぶ、または医療機関への受診を強く勧めることが求められます。

重症度による対応の違い

重症度主な症状対応
I度めまい、立ちくらみ、大量発汗、こむら返り現場で対応。水分と電解質の経口補給
II度頭痛、気持ち悪さ、倦怠感、虚脱感、集中力・判断力の低下医療機関への受診が必要
III度意識障害、けいれん、肝・腎機能障害など(IV度に該当しないもの)救急車の要請
IV度深部体温40.0℃以上かつ重度の意識障害救命救急治療。積極的冷却が必要

薬局にIII度以上の患者さんが来局することはまれですが、遭遇した場合は躊躇なく緊急対応をすることが重要です。この分類を理解しておくことで、患者さんとの会話の中から「この人は大丈夫か、医療機関に行くべきか」を判断できるようになります。

ハイリスク患者を早期に見出す|13項目のリスク因子

熱中症の発症には、患者さんの背景が大きく影響します。ガイドラインでは、発症リスクを評価する13項目が示されています。

  • 高齢者/施設入所者/要介護者/独居
  • 小児
  • スポーツ選手
  • 農林業、土木・製造業などの肉体労働者
  • エアコンを使わない人
  • 心疾患、悪性腫瘍、精神疾患、糖尿病などの基礎疾患を持つ人
  • 特定の薬剤を服用している人

薬局には、患者さんが定期的に来局します。服薬指導の際に背景を把握していれば、誰のリスクが高いかを見分けられます。気が緩みやすい9月だからこそ、リスクの高い患者さんへの「まだまだ気を付けてください」という声かけが有効です。

労作性と非労作性の違いに注意

運動やスポーツ、屋外作業による労作性熱中症は、若年男性に多く、数時間以内に急激に発症します。

一方、安静時に発症する非労作性熱中症は、高齢者や基礎疾患を持つ人に多く、数日以上かけて徐々に症状が進行します。発見が遅れやすいのが特徴で、気が緩む9月には特に注意が必要です。

暑熱環境下で注意を要する薬剤

熱中症対策で見落とされやすく、かつ薬局が最も貢献できるのが「薬剤」の影響です。米国疾病予防管理センター(CDC)が2025年に公表したガイダンスでも、暑熱環境下における薬剤性の熱関連疾患を防ぐため、患者ごとのリスク評価と服薬管理計画の検討が強く推奨されています。

薬剤暑熱環境下でのリスク
利尿薬脱水を助長。電解質異常により失神・転倒のリスク
降圧薬(β遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、ARNI)血圧低下による失神・転倒。一部は口渇感を低下させ、水分補給の必要性に気づきにくくなる
抗コリン作用を有する薬剤(一部の抗ヒスタミン薬など)発汗低下により熱を放散できず、深部体温が上がりやすい
三環系抗うつ薬抗コリン作用による発汗低下
抗精神病薬(ハロペリドール、オランザピン、クエチアピン、リスペリドンなど)発汗機能と体温調節機能を障害する可能性
SSRI/SNRI(セルトラリン、デュロキセチンなど)発汗を増加させ、脱水リスクを高める
炭酸リチウム電解質異常や腎性尿崩症。脱水時はリチウム中毒の危険
SGLT2阻害薬浸透圧利尿により脱水を助長
NSAIDs脱水時に急性腎障害のリスク

「Triple Whammy」に要注意

さらに見過ごせないのが、薬剤の組み合わせです。利尿薬+ACE阻害薬またはARB+NSAIDs——この3剤の組み合わせは「Triple Whammy」と呼ばれ、脱水時に急性腎障害を引き起こす危険性が極めて高いとされています。

処方箋をチェックする際、この組み合わせが含まれていないか確認することは、患者さんの命を守る重要なステップです。

薬局が今、実践できる4つのこと

1|服薬指導に熱中症対策を織り交ぜる

上記の注意が必要な薬剤を服用している患者さんには、「この季節、水分補給はいつもより気を付けてください」という一言が有効です。高齢者や基礎疾患を持つ患者さんには、こまめな水分・塩分補給の重要性をあわせて説明します。

2|経口補水液(ORS)を適切に提案する

予防段階では水や麦茶で十分ですが、すでに脱水を伴う状態では、水のみでは血清ナトリウム濃度の低下を招き、十分な体液補充につながらない可能性があります。リスクの高い患者さんには、ORSの備蓄を勧め、適応や使用方法を丁寧に説明することが大切です。

3|暑熱順化について啓発する

2024年版ガイドラインでは、暑熱順化が熱中症の発症・重症化リスクを低減する可能性が示唆されています。暑熱順化には1〜2週間程度を要し、曝露が中断すると4日後からその効果が失われ始めます。

9月は夏休み明けで生活パターンが変わる時期でもあります。「少し汗ばむ程度の運動を始める」「湯船に入る」といった声かけが、患者さんの熱中症予防につながります。

4|回復期の指導を忘れない

熱中症から回復した患者さんが来局した際は、ふらつきや食欲低下、吐き気などの症状が残っていないか確認し、体調に応じた日常生活への復帰を説明します。特に労作性熱中症の場合、運動や屋外作業への早期復帰は再発や重症化につながるため、十分な休養と段階的な再開を助言することが望ましいです。

「気が緩む時期」だからこそ、薬局の役割がある

熱中症は、7月・8月だけの課題ではありません。9月の長く続く猛暑の中で、人々の警戒心が緩む時期にこそ、深刻な状況が生まれやすいのです。搬送された患者の60%以上が高齢者であり、その多くが自宅で発症している——気を抜いた日常の中に、熱中症の危険は潜んでいます。

薬局は、地域住民が日常的に立ち寄る場所であり、服薬管理を通じて患者さんの背景を把握できる立場にあります。重症化のサインを見逃さない目。ハイリスク患者を早期に見出す視点。そして暑熱環境下での薬剤の影響を理解する知識。

これらを持つことで、薬局は単なる医薬品の提供者から、地域住民の熱中症予防を支える担い手になります。

改めてガイドラインの内容を確認し、自分の薬局では何ができるかを考えてみてください。その小さな工夫が、患者さんの命を守ることにつながります。

参考資料

  • 日本救急医学会『熱中症診療ガイドライン2024』
  • 総務省消防庁「令和8年7月の熱中症による救急搬送状況」
  • 米国疾病予防管理センター(CDC)暑熱と健康に関するガイダンス(2025年)
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